最新号IN/SECTS Vol.16で行った企画、「出版リアル放談 もっと小さく、もっと自由に。レーベルって楽しい!」(P41)。
もともと大手出版社に比べれば発行部数の少ない小さな規模の出版社ですが、その分、刊行物が出版社の顔そのものと言えるような独自性のある書籍が魅力です。最近そんな出版社から、さらに小さな規模の出版をするレーベル活動が母体とは別に広がっているんです。
今号では、ミシマ社代表・三島邦弘さん、夏葉社代表・島田潤一郎さん、三輪車代表・中岡祐介さんに集まっていただき、小部数のレーベルだからこそのおもしろさと、そこから見える本づくりの魅力について存分に語っていただきました! 3名の時に楽しく時に苦しい(?!)本づくりの行方。WEBでは本書に入れたかったけれど入りきらなかったエピソードを、ぐぐっ増量してお届け致します!
<出版リアル放談 参加者>
みしま・くにひろ
京都府生まれ。「一冊入魂!」を掲げ、2006年にミシマ社を設立。著書に『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』(河出書房新社)など。レーベル「ちいさいミシマ社」を始めたほか、出版業界の新たなシステム「一冊!取引所」を立ち上げている。
しまだ・じゅんいちろう
高知県生まれ。「何度も、読み返される本を。」をテーマに、2009年に夏葉社を設立。絶版した書籍の復刊などにも尽力。著書に『あしたから出版社』(晶文社)、『古くてあたらしい仕事』(新潮社)など。インディペンデントレーベル「岬書店」を設立。
なかおか・ゆうすけ
茨城県生まれ。「おそくて、よい本」を掲げ、2014年に三輪舎を設立。妙蓮寺の書店[本屋・生活綴方]の監修や、[石堂書店]の経営に参画。街の人と本をつくるレーベル「生活綴方出版部」を主宰。[生活綴方]内にリソグラフスタジオをつくり、街の拠点を生み出している。
書店との関係性をつくる
―まずは母体となる各社の出版部数についてお聞きできたら。
三島邦弘(以下み) 初版は4000〜5000部が多いですね。ミシマ社の本は、「濃くできるだけ広く」ということを目指していて。
島田潤一郎(以下し) 夏葉社は2500〜3500部が多いです。重版って大変だから、今は2刷目の分も視野に入れて部数を決めている感覚です。
み 増刷にかかる印刷代が1番効率悪いですよね。めちゃくちゃ悪い。
中岡祐介(以下 な) 資金繰りのこととか考えると、もう…(笑)
み 急に経営者会議みたいになってきた(笑)
な うちは絵本や詩集、エッセイなど、さまざまなので一概に言えないですが、2000部から3000部ですね。先日発売した安達茉莉子さんの『私の生活改善運動』は、初版が3000部で2刷が2000部、今回3度目の重版をすることになり、もう増刷の部数を悩むのが嫌になってきたので5000部刷りました(笑)
み おお、大胆なことしましたね(笑)
な 今後も広がっていくのではないかという気持ちもありますし、書店さんに「在庫がないんです」と言うのが嫌なんですよね。
み ミシマ社は創業時に僕が「絶版を作らない」宣言をしたので、必ず重版しているんです。
し 最初、三島さんがそう宣言したから、僕らもそうしようって思ってますよ(笑)
み 思わず言っちゃったんですよね。
し 今の出版サイクルは非常に早くて、売れなかったらすぐ絶版。僕がなぜ出版社をやっているかと言うと、この流れに対してすごく反発心があるんです。だから三島さんがそう言ったことですごく、おお!という気持ちになって。
み それと現実の厳しさ…年々重くなってます(笑)
―いち社員の身からすると、重版はとても嬉しいことなのですが、大変というのは…?
し 何年も出版を続けていると、年間100冊も動かない本だってあるわけで。それを1000部重版した場合、10年以上かけて全てを売るという仕事をしなければいけない。ここで電卓をはじくと…利益って本当に僅かですよ。
み そうなんですよね(笑)
し だから利益のためというより、夏葉社の理念や著者のためであったり。
―なるほど、そうですよね…。では、みなさんの始めたレーベルは、どの程度刷っているのでしょう?
み まずミシマ社は、8年前に「コーヒーと一冊」シリーズをつくったのが小部数出版の始まりです。「コーヒーと1冊」は100ページ前後でつくることを決めていて、それまで「本をつくるなら200ページぐらいないと」と思っていたので、固定観念から放たれたと言うか。自分の編集の枠も広がったと思います。加えて、書店と版元の新しい在り方をつくりたいと試行錯誤したところもあって。取引条件は買い切りのみ。
し なるほど。
み その経験を踏まえ、ちいさいミシマ社を始めました。ちいさいミシマ社は「濃く太く」。この一冊を待っている人に太く届いてほしいという考え方で部数は2500部前後です。
し 僕は岬書店を2019年に始めたのですが、前提にあったのは書店との関係ですね。うちの流通は取次のJRC経由が半分、書店との直接取引が半分。なので、直接取引の書店に対して何かアドバンテージのようなものをつくりたくて。だから岬書店の本は原則、直取引の書店に買取でしか卸さない。1500部程度刷ることが多く重版もしない。
な 宣言してますもんね。
し 加えて、岬書店で声をかけている著者は、他社では本を出していないような方が多いですね。名前がある人に声をかけても岬書店でやる意味がないというか。
―売れるかどうかよりも、おもしろいかどうかが大切という?
し そうそう。70歳ぐらいまで新鮮な気持ちで仕事をし続けたいと思ったら、新しいことしていかないと。夏葉社は今14年経つんですが、10年以上やってると、やりづらくなってくるんですよ。
み 型ができてしまいますよね。
し すごく親しいある書店から「夏葉社は最近新鮮味を感じない」って言われて(笑)
み え〜(笑)
し でも自分の中では薄々感じていたことだったんですよね。同じ人間が中身もデザインもつくっているわけで、そうするとタイトルのつけ方や構成の仕方が似通ってくる。これでは、どんどん先細るなと思って。だからそうじゃなくて、もっとフットワーク軽くばんばん誤植も出すような本づくりを、お金をかけずにしてみようと。
み そういう割り切り方ですか!
し 普段企画を思いついてやりたいなあと思っても、「でも今度娘が小学校入るしなあ…」みたいに考えちゃって(笑)
な でもそれは重要(笑)
し 生活の重しのようなもので判断がどんどん鈍って鮮度が落ちる。
み あー。
し 既存の出版社と違うことをやることに価値があると思うので、パンクバンドの精神を大切にしてやっていこうと岬書店を始めました。で、6年やったらまた型ができ始めて…今また違う出版レーベルを立ち上げようかなって(笑)
な あっはははは(爆笑)
し 4つぐらい始めようかな(笑)
み 岬書店としては何冊出してるんですか?
し 今は6冊ですね。『ブックオフぶらぶら大学』とか、夏葉社だと出しづらかったんですよ。「ブックオフの肩持つのか!」と言われそうだなって(笑)。でも、意外と平気だったので(笑)、夏葉社で新装版を出して。理想を言うと100部ぐらいのものをつくりたいですね。儲けたいのではなく、新しい空気を自分に取り入れたい。
―実験の場でもあるんですね。
し そう。遊び的なものの軽やかさってあると思うんです。例えば「コーヒーと一冊」シリーズの『愛と欲望の雑談』がありますよね。あの本が持つ軽い感じというのは、やっぱり別レーベルだからできると思う。遊び感覚のような雑談の中に本質があって。そういうものをしっかり捕まえにいこうとすると、だいたいが指の隙間から逃げていってしまう。
な 遊び心って大切ですよね。
し 本づくりには遊び心がないとダメな気がしますね。やっぱ優れた本、特に絵本を見てると優れた絵本っていうのは、だいたい遊び心がある。福音館書店さんのすごいところは、遊び心と冒険心がある絵本というところですよね。
軽やかに本をつくるために
な 生活綴方出版部の本は、遊び心を最優先。印刷はすべてリソグラフ。僕が経営に関わる書店の出版レーベルなので、一応三輪舎とは別と考えています。売ることではなくてつくることが目的なんです。子どもの頃みんなで文集をつくったりしたのが楽しかったという記憶があって。でもそれを実際に本としてつくろうと思った時、ISBNをつけてきれいな装丁にしてとなると、当然元すら取れない可能性があるわけで。リスクと隣り合わせだし。あと、書きたいけど本をつくれない人って世の中にたくさんいると思うんですね。
―確かにそうですね。
な 書くことって本当は自由だから。有名無名関係なく誰でも作家になれるわけですよ。それをどうしたらできるか考えた時に、街に一台リソグラフがあればできると思ったんです。コストの面でも、例えば文庫サイズの本は1冊つくるのに30円かからないんです。
み え!?
な だいたい最初に200部から300部ぐらい刷るんですけど、今日持ってきたのはほとんど増刷をしていて累計でそれぞれ約600部は刷ってますね。「私の生活改善運動」シリーズは全部で5000部。
み えぇっ!? すごいですねえ。
し リソグラフだと、100部作るのにどのくらい時間がかかるんですか?
な 印刷はだいたい1時間ぐらい。そこから断裁して製本して…半日ぐらいでしょうね。
し インクって、どうなってるんですか?
な うちは8色揃えていて、それを入れ替えたりしながらつくっています。インクが安いんですよね。全部特色なんですけど、一つ3000円ぐらいで買えて。しかも石油系のインクじゃなくてライスインクとかソイインクを使っていて、環境負荷が低いんですよ。
み なるほどな~。なんか欲しくなってきたな(笑)
な 生活綴方出版部は、あくまで僕が企画したり、声かけしたりしているものを出していて。
み ちなみに、リソグラフっていくらぐらいで入れられるんですか?
な 新品だと200万円ぐらいですね。
し メーカーは?
な 理想科学工業です。
し 日本の会社なんだ。
な そうそう。中古ならヤフオクとかにも結構ありますね。
み 本当にミシマ社でも考えようかな(笑)。
な 手製本というか、人力製本ですね(笑)
し あはは(笑)。ミシマ社さんとか、あってそうですよね。
み ミシマ社通信とかもあるし。
し 若手社員が何かつくったりも良さそうですよね。
み これは今日、すごくいいこと聞けたなあ。
な 三輪舎の本はつくるのにお金がかかる。一般的な印刷をしても100万円ぐらいかかりますし。それこそ、(インドの)タラブックスの本もつくってるし、印刷が大変な本をいっぱいつくってきちゃったから、本をつくるのが怖くて怖くて仕方がない時があるんですよ。それで1冊も売れなかったら…と考える時がある。本をつくりたいのにつくれない自分自身の悩みも原動力になっているかも。リソグラフだったらパッと刷っても1万円ぐらいだし純粋に本をつくる楽しみもある。あと、自分自身の経験にもなってますね。そもそも出版部は実質僕のレーベルですが、オーナーは石堂書店。失敗しても痛くも痒くもないっていうか(笑)
し ちょっと、今のちゃんと書いてくださいよ!(笑)
な 僕は、石堂書店の経営も関わってるので、最後は全部自分に降りかかってくるんだけど(笑)。出版部では『文集・バイト』など「文集・○○」シリーズをつくってて、いろんな人に書いてもらうのですが、これが結構おもしろくて。1000部とか売れるんです。石堂書店の利益を、これが今大きく稼いでくれてます。少なくとも生活綴方の売り上げの半分はこれ。利益で言うともっとです。
―それはすごいですね。
み 自分のところで売れますし、利益率超高いでしょうね。
し 大発明ですね。
な 大発明の割に、ものすごい量の手作業をしてますけどね(笑)
み 編集も全部、中岡さんが?
な そうですね。ここは岬書店から着想を得てるんですけど、誤字脱字あっていいじゃんって。それぐらいの気持ちで本をつくってもいいんじゃない?って。
み うんうん、いいですね。
な でもれっきとした本なんです。本屋をやってると、自分でつくった本を持ち込まれる方が多いんですけど「この冊子を作ってきたんですけど」っていう人、僕ほんと信頼できなくて。
み (笑)
な これ、本だから!って。あなた作家なんだから、自分がつくったものはもっと責任や覚悟を持って紹介したほうがいいし、そんな自信なさげに持ってきてもらわれても困るよって。
し そうね。
な どんなに薄かったり小さかったり形は違っても、それは本だと思うんです。
み 確かにねえ。
な 最近猫を飼い始めたんで、今『文集・猫まみれ』をつくってます。
し 猫飼い始めたんですか? まじっすか?
な そんな驚く話じゃないでしょ(笑)。今まで25タイトルぐらいつくってますが、生活綴方出版部の本は、ノリでつくってますよね。
み その感覚がミシマ社にもかなり必要な気がしてきました。今創業17年目で14人いるんですけど…
し めちゃくちゃいるじゃないですか(笑)
み 出版業だけで他に稼ぎはないですから、ミシマ社の本でしくじるわけにいかないんですよ。とはいえ「売れる」ことだけを目標にはしない。おもしろく、かつ、届く。そうなるとGOを出せる企画のハードルもどんどん高くなる。
な う~ん。
み たぶん若手にとって息苦しい環境になっている。小さな規模で最初はみんなのびのびできてたはずなのに。だからちいさいミシマ社では気にしないでやってみよう、と。例えば去年出た『動物になる日』は、あるメンバーが新人時代に前田エマさんへ依頼して、4〜5年がかりで小説になった。こんなに1冊に時間をかけられるか?というぐらいかけてつくって、すごくいい小説になったんです。
し うんうん。
み ただ中岡さんの話を聞いて、リソグラフぐらい軽やかな感覚もほしいなって。僕らも、最初ノリだけでやってたんですよ。さっきの文集シリーズみたいな、ああいう気持ちでやってたはずなのに…できなくなってたということに、今気づきました、反省です。やっぱりこれは、僕らもリソグラフを入れようかな。
レーベルが持つ可能性
な 実は三輪舎は今年9周年なのですが、まだ11冊しか本をつくってないんですよ。
し ははは(笑)
み そうか!(驚)でもすごいインパクトですね。全然そう思えない。
な もうすぐ10周年。本を出してない年もあったし、本当に回り道してやってきたところがあって。本をつくる楽しみは11冊を通してすごく感じていたけど、話したように、同時に怖さも感じていて。だから生活綴方出版部の本には、純粋に本をつくる楽しみがありますね。あとはやっぱり自分の勉強になっている。
み&し 確かに。
な 常に三輪舎の本の編集作業はしてるんですけど、9年で11冊というのは量としてやっぱり少ないから。
し 僕は、岬書店は出版をおもしろく続けるために必要ですね。僕サッカーが好きなんですけど、サッカーで一番危ないのは前半を2対0で終えること。夏葉社は今14年目で、2対0で折り返しそうなんですよ。
み そうなんですか!?(笑)
し ここまで築き上げたのは他社がやらないことをやって攻めてきたから。ここで守りに入ったら、必ずひっくり返される。
み ベルギー戦みたいな。
し 電光石火でしたからね。気づいたら負けてる。
な でも言ってみれば、誰に負けるんですか?
し 社会の型や常識かな。
み 僕もサッカーが好きで、よく例えるんですよ。でもこの発想は一切ないかったからすごく新鮮! おもしろいですね~。
し だから岬書店があることで、攻め続けられるんですね。それに、つくる機会は多いほうが絶対いいです。これもサッカーと同じ!
な (笑)
し 1発勝負じゃダメですよ。サッカー本を読んでいて、おお!と思ったんですが、ヨーロッパは子どもの時からリーグ戦なんです。トーナメントとかないんですよ。だからこの試合はスコアレスドローで終わってもいいとか、そういう試合の賢さというのがある。
み はいはいはい。
し それは試合数をこなさないとわからない。練習でいくら同じことをしても、試合を丸々一試合やらないとわからないことはたくさんあって。
な 日本はトーナメントですもんね。
し そうそう。新しいことでいうと、僕は4月から文章教室をやるんですよ。
み どこでやるんですか?
し 庄野潤三さんの家が生田にあるので、そこで。生徒は8人いるんですが、1年間隔月で原稿用紙2枚分の原稿を書いてもらって、その原稿を元に30部、50部ぐらいの冊子をつくる。
み&な へ~!!
し それは別に販売はしないんですよ。本をつくり始めた最初の気持ちを思い出したくて。
み なるほどなあ。
し 僕はプロの作家じゃないですけど、編集者だったらこう直すという視点はあるので、そういうことなら生徒にも伝えられるし。どうすれば文章が生きるとか。それをまずは3年ぐらいやってみようかと。全く利益は関係なくて。本当にただただ新しいことをやってみたいんです。
み やっぱり新しいことが大事ですよね。ちいさいミシマ社から『幸せに長生きするための今週のメニュー』という本を出したんですが、これは布張りで外見はまさにノート。背表紙にタイトルもない。編集を20年以上していますが、こういう本づくりは初めてで、自分の中になかった扉が開いた感じがすごくしましたね。このレーベルでしかできない本づくりにもっと挑戦したいと思ってます。
―新しいことに挑戦し続けられるのがレーベルの良さ、と。
し 僕は、政治経済の本をつくりたいんですよね。政治経済のど真ん中をつく。これはやっぱり夏葉社じゃできないですよ。
み めっちゃいいじゃないですか! その本、読んでみたいなあ。新レーベルをつくって?
し そうそう。それはなんとなく自由研究社みたいな名前とか。
な ありませんでしたっけ? 自由研究社って。
し あるね(笑)。じゃあ、大自由研究社(笑)。電気料金が上がるのとか全然納得いかないじゃないですか。企業としては失策でしょう。それをちゃんと自分で調べたり研究したりして大学生のレポートみたく書きたい。熱く訴えるんじゃなくて「探偵ナイトスクープ」みたいな感じでやりたいですね。
な それって夏葉社でやってもいいんじゃないですか?
し 怖い怖い。
な いや怖いんですけど(笑)、島田さん本人が思ってるほど書店さんや読者の方はそこまで夏葉社と岬書店を分けてないんじゃないかな。分けていくと夏葉社の本をつくればつくるほど、どんどん堅くなってしまうような。僕、三輪舎の本として出したくない本はなくて。例えばいきなり政治の本を出せないわけじゃないっていうか。
し 出せそう。
な 三輪舎はラインナップに幅があるからですが、内容におけるアイデンティティという意味で、「これはレーベルでなくてはならない」というのはあまりないんじゃないかなって思います。
し 夏葉社に対する読者の期待に応えたいという気持ちがあって、そっちが勝っちゃうんですよね。それはちょっとしんどい(笑)
な でも裏切りたい気持ちも?
し ない(笑)
な ないんだあ。
み 僕は続けてく中で応えられなかったと思うこともあって、10年目ぐらいまでずっとその気持ちと闘っていたと思うんです。でも今はその気持ちを超えて、ちょっと先に球を投げ続けて、5年後10年後に「あれはこういう意味やったんか!」って思ってもらえるぐらいのことをやりたいなと。それができてるとは思ってないけれど、そうありたいし、そこは自分に期待したいです。
な ストイックだ~。
み (笑)。でもそこは楽しんで。
し 修行僧みたいにではなく?
み 苦しみながらそういうことをしたいとは、全然思わなくなりましたね。サッカーでももうこれ以上走れへんって時ありますよね?
一同 笑
み その時々のコンディションもありますし。周囲の反応は結果の一つと思うようになったかな。
し すごいな~。
―改めて本をつくる楽しさってなんでしょう?
み おおおお(笑)
し 「プロフェッショナル仕事の流儀」みたい(笑)
一同 爆笑
な 僕は本当に本をつくることが幸せで仕方がないんです。
し まじですか?!
な うん。だから本当に、本をつくったことのない人間が三輪舎という出版社を始めて本をつくるようになった。そこで何が言えるかというと、誰でも本をつくれるっていうことなんですね。売れる売れないとかで結局お蔵入りになったりするのってすごくもったいないと思う。別に売るってことを前提につくらなくてもいいじゃんって。(リソグラフで)1万円で100部つくって、それを人に配っても別にいいじゃんって思うんですよ。
み そうですねえ。
な 本をつくることは財産になるわけで、その延長に何かがあるんじゃない?って思うんです。本当に作家になる人だったらね。安達茉莉子さんはそういうタイプだったし。彼女は本当に自分でレーベルをつくって本をつくるところから始めて、今は作家としてやっていますから。そばで見てきた者として言えるのは、誰でも本をつくれるということです。それを、いろんな人に伝えていきたい。
し 僕は、そんなに本をつくるのは好きじゃないタイプ。
一同 爆笑
し 本ができてから完成した本って読みます? これって編集者の中でも、結構パターンが分かれるんですよ。
み 僕は読まないほうですね。
な 僕は、あとになって読んで、これはめっちゃいい本だ!って思ったりします。
し 僕は、10年経っても読まない本もあります。
な ええっ!? 僕は感動して泣きますよ(笑)
し 本当に? だからそういう意味では、僕は本が好きですけど、本をつくることは今もそんなに好きじゃないのかもしれない。だって自分がつくらなくても、いい本はたくさん世に出てるし。
み&な それは、本当にそうですよね。
し 自分の人生を全部使っても読みきれないぐらい本は出てるから。そういうすごくネガティブな気持ちがありつつ、でも夏葉社への期待には応えたいという…青息吐息ですね(笑)
な そんなことを言える島田さんが羨ましいですよ(笑)
し (笑)。でもその中でも常にモチベーションを持ってやっていきたいから、いろんなことをやってる感じですね。夏葉社だけだったら続かなかった気はするんです。経営的にも気持ち的にもね。
み なるほどねえ…そういう意味で僕は一貫して、本づくりはずっとおもしろいですね。楽しんでやってます、サラリーマン時代から。大学を卒業した1年目とか、世界一楽しい仕事をしてる!という実感がはっきりとあって。それは、もともといろいろなアイデアを思いつくタイプの人間だったからかもしれません。企画書をつくったら誰か見てくれんや!とか、それを著者の人に相談できるんや!みたいな。純粋に楽しくて、その延長でずっとやり続けている。それでレーベルも増えて、さらに受け皿が増えて。なんだか今はちょっとアイデアが止まらない、おかしな人みたいになってるかも(笑)
し&な 爆笑
し まじっすか(笑)
み だからすごい社会とのバランスを取ろうと思って生きてるって感じです。
な 爆笑
み そういえば、新しいレーベルを始めるんでした! 5月頃を目標に進めてるんですけど、捨てないミシマ社っていうレーベルです。
し いいですねえ!
み 過去に断裁したことがあるのが、返本で傷んで出荷できなかった本。そういう断裁対象になる本をレーベルにして、「一冊!取引所」のシステム「一冊!決済」を通して仕入れてもらえるようにしようと。3掛けで卸して、販売は自由価格。これなら再販制度に引っかからないですし。
し 引っかからないんですか。
み そうなんです。捨てないミシマ社の本だったら、買い切りでも本屋さんのリスクが少ないというか。レーベルが違うことで別の本として生まれ変わるんです。
な そうか、新たに本をつくるわけではないけど、それもレーベルの可能性ですよね。
―考え方次第で、レーベルでできることって、実に多いですね。
し あ~。それ乗っかりたいな。
な 僕も、乗っかりたいですね。
み 軌道に乗ったら「捨てない○○」を各社ができたらいいなと思ってます。そうすれば出版業界が抱えてる環境問題にも変化をもたらせるし、小売書店と出版社の歪な関係も少し改善できるんじゃないかなと。出版を始めたい人の、ヒントにもなるかもしれないですね。
し いいですね。やっぱり本づくりを楽しく続けるには、僕はレーベルが必要だなあ。レーベルをつくることは、ポジティブなことが圧倒的に多いと思いますね。
聞き手 小島知世(編集部)