“文字”をはじめて書いた時のことを覚えていますか?
この春から台湾華語を学び始めた。インセクツメンバーには台湾出身のデザイナー・簡さんがいる。彼は日本語を勉強中で、分からない言葉があればインセクツメンバーが日本語ネイティブとして教えるけれど、お互いに母語を教え合うと文化も知れたり学ぶことに対等な関係が持てるのが良いと考え、私は台湾華語の中国語を教えてもらうことにした。
まずは普段使うフレーズ、日本独特の「お疲れ様です」文化について。(「IN/SECTS 」Vol.14 「言葉は楽しい」特集、簡さんの「日本語まだまだこれから勉強記」P.52参照)
「お疲れさまです」は日本では馴染みのあるビジネスワードだけど、台湾ではまったく使わないそうだ。では、仕事が終わって帰るとき台湾ではどう言うのかを尋ねると、簡さんは声に出して教えてくれた。日本語を話す時の控えめな印象とは違う、ハキッとした強さを感じる中国語の音だった。
「ワシェンツァォラ」「ゥーシャーシャァシンッ」
私の中に中国語の音の引き出しがないため、耳が音を捕まえられず通り抜けていく。そのフレーズはどんな漢字で書くのか調べてみた。
「我先走了」「路上小心」
なじみのある漢字だから、音を聞いた時だけよりも意味のある言葉として認識しやすくなった。
台湾で使われている漢字は繁体字と呼ばれるもので、日本で使われている漢字とはすこし違い、日本語の旧漢字のような画数の多い複雑なもの。こんな難しい漢字を、台湾の子どもたちはどう覚えるのか?「注音符号(ちゅうおんふごう)」というものを学ぶらしい。日本語でいう、五十音だ。
はじめて見た注音符号一覧。並んでいる法則性も何もかもわからないのでとりあえず眺める。そのわからなさに胸が躍った。
ㄜㄘㄑㄟㄡㄙ
「これはどう見ても、“さちくへヌム”やね。」 漢字を簡略化したような記号や、女子高生が書くような手書き風のかわいいフォントで表示されたような、ひらがなに見える文字がある。わからなさの中に一つの焦点が見えて嬉しくなるが、さちくへヌムではない。
注音符号をひとつずつ、ノートに大きくゆっくりと描いてみた。まだ文字というより絵の認識で、ただ形を見てなぞっていく。この文字のこのカーブはすべすべしているだとか、この窓になったところにぶら下がる、など自分自身が小さくなって文字と同じ大きさになり、全身で文字と遊ぶ。
学生時代のような、覚えないと悪い成績がついてしまうプレッシャーも、覚えないと明日を生きられないという状況下でもない、ストレスの無い学びは楽しいものですね。
注音符号をなぞりながら、はじめて日本語や英語の文字を書いた時の記憶をさかのぼったけれど気づけば書いていたので、もう思い出せない。自発的に学び始めた台湾華語の注音符号を描いたこの新鮮さや没入感は、もっと勉強をしていく過程で日本語や英語の時のように忘れてしまうのだろうか。
私は第二言語として英語をまだまだ勉強中だけど、できることを増やすためには今の自分ができることよりも負荷をかけるので、時々疲れたり嫌気が差すこともある。何かを得たいと欲を持った時、純粋な学びの楽しさを差し出すことになるのではないかと、微かな寂しさを感じる。
そんな時こそ、台湾華語の文字をはじめて書いてみたときの、愉快なわからなさを、“さちくへヌム”を思い出したい。別の国の言語を知ることは苦痛や面倒なことではなく、好奇心を持って新しいことを知る豊かな行為なのだということを忘れずに、終わりなき言語学習の道を走り続けられそうだから。
*
ふと思ったのだけど、日本語話者の私が注音符号の「ㄜㄘㄑㄟㄡㄙ」を「さちくヘヌム」に見えたということは、逆の立場の簡さんもはじめて日本語のひらがなとカタカナを見たときには「さちくヘヌム」が「ㄜㄘㄑㄟㄡㄙ」に見えたのでは? 簡さん聞いてみたところ、そんなこともあったなぁというような笑いと共に肯定していた。
ちがう国でちがう言語を使っているのに、同じような文字で同じような体験をしている。意味を持たない文字の羅列のさちくヘヌムが温度と立体感を持ち、「一緒に勉強していこうな」と寄り添い始めた気がした。
橋本麻里絵(デザイン)
〜おまけ〜
せっかく外国語を勉強してるので、日本語話者ではない方に向けても書いてみます。届くかな?
大家好!我叫橋本麻里繪。我是來自日本的平面設計師。
今年春天我開始學習台灣華語。首先我學寫注音符號,其中一些符號看起来像日本語,很有趣。
如果去台灣玩,我想要去夜市,我想吃好吃的料理,然後我想要去書店。
下次見,拜拜。
My first writing experience in Taiwanese Mandarin
Do you remember how you learn writing characters of your language at the first time in your life?
My mother tongue is Japanese, and I’ve started studying English since I was in junior high school. Actually, I don’t have any memories about writing characters in both languages in the beginning. Even though I still would like to share the experience that I’ve begun learning Taiwanese Mandarin from spring this year.
I really enjoy learning new languages, even just writing Taiwanese Mandarin characters, I recalled to learn foreign language is fun through that experience.
One of the members of the INSECTS,Mr. Kan, who is a designer from Taiwan. He teaches us some Taiwanese Mandarin phrases.
The characters that are used in Taiwan look like kind of different than in other asia country. I think that look like more complicated than the Japanese ones.
I truly wonder how Taiwanese children memorize such difficult characters.
I tried to ask Mr.Kan that question, then he told me that they learn characters by ‘Bopomofo(ㄅㄆㄇㄈ)’.
When I looked at a table of Bopomofo, I couldn’t catch anything at all. I felt those were really unfamiliar characters to me, but as what I said that I always felt excited about that unfamiliar things. More tha that,I found some similar shapes to the Japanese in the Bopomofo. I got a feeling which is more closer to Taiwanese Mandarin. In fact, Those don’t have the same meaning and sound with the Japanese ones even the shapes look alike it is.
I tried to write a table of Bopomofo in my notebook. Those aren’t so much letters as a picture to me. I just traced them, found a point of one letter, for example ‘this curve is a smooth texture and the other letter has a square shape that looks like a window. I imagined hanging in the window and changed the size of my body to the same size as the letters, At that time, I felt like I was playing with those characters.
Besides, English is my second language, and I am still learning it day by day. Sometimes I felt frustrated that I could not use English very well in some occasion.
I still remember the feeling I wrote the Taiwanese characters for the first time, It’s really enjoyed for me. I’d like to continue to learn. It is full of enjoyment even sometimes I felt bad at it.
Learning new languages isn’t an intractable thing. On the other hand, It could make me keep curiosity for everything and explore this big world.
Thank you for reading my essay.
See you again in a few weeks!
Marie Hashimoto (Graphic Designer)