インセクツの編集部は大阪にある。
だが、私が住んでいるのは大阪でも関西でもない。
愛知県、その中でも名古屋から特急電車で30分ほどの位置にある中核都市・岡崎市に住んでいる。生まれ育った街だ。一般的には、徳川家康の生誕地として知られている。最近では、YouTuber「東海オンエア」の活動地と言ったほうが、ピンとくる人もいるかもしれない。
この岡崎のランドマークに[CIBICO]というビルがある。[CIBICO]は1976年(昭和51年)にオープンした、百貨店のようなショッピングセンター。 なかなか年季を感じるビルで、6階建てなのだが、テナント不足により4階から上は使われておらず、照明も落とされて真っ暗だ。外から見ても上半分は明かりがないので、薄暗さすら感じ、地方にある喫茶店のような、「営業はしているみたいだけど、中の様子がわからないから入りづらい」といった印象を抱いていた。
だけど、かつてはここも若者が集う岡崎一のおしゃれスポットだったのだ。 ちょうど私の親世代(1960年代頃生まれ)はその頃を体験していて、[松坂屋]、[ジャスコ]、[メルサ]などのビルが建ち並び、そのまわりにはいくつもの通りに商店街があり賑わっていたようだ。
余談だが、私の母も高校時代には[CIBICO]でバイトをしていた。メンズ服の店で店員をしていて、メンズアイテムを女の子でも似合うように着こなしながら男女問わず販売していた。その際、店のアイテムと相性が良さそうなものがあったり、客の要望が違ったりしたら、同じフロアにある他の店に案内して勝手に商品をオススメするという、何ともでたらめな売り子だった。しかし、そのやり方で事実売れてしまっていたので、最終的にフロア全ての店(メンズ服のみならず、メガネ屋までも)で掛け持ちし、どの店のシフトに入っていても、他の店の商品を売り込んでいいという、店同士の平和条約が結ばれた売り子武勇伝を聞かされたことがある。
現在は松坂屋などは無くなってしまい、[CIBICO]が唯一残っている。
私が初めて足を踏み入れたのは、2016年のあいちトリエンナーレだった。普段閉鎖されている6階に大きな彫刻や写真が展示され、片や下層階ではおばあちゃんたちが普通に買い物をしていて、そのギャップがおもしろかった。 1〜3階は、婦人服店をはじめ、[バナナレコード]や100円ショップ、書店、他にレザークラフト、ボタン、小銭・コイン、韓国産雑貨などのニッチな専門店がある。 地下にはスーパーがあり、地元産野菜や調味料などのラインナップが、他のチェーン系スーパーと違うこと、魚コーナーで物色していると厨房からおじいちゃんが出てきてオススメを教えてくれること、韓国料理の惣菜コーナーがあってキンパが美味しいことなどが気に入っている。
そんな[CIBICO]が最近、注目を集めている。
どこか懐かしい作風が特徴のアパレルブランド[幸福館]と、岡崎にあるセレクトショップ[abundantism]がコラボし、[CIBICO]公認のグッズをつくって販売しているからだ。 昨年つくられた、ロゴTシャツやお買い物カゴバッグは好評ののちに完売(かくいう私もTシャツを購入)。今年は第2弾として、刺繍Tシャツ、メモ&ペン、保冷バッグが発売されたのだが、発売早々に地元の女子高生が、待ってましたと言わんばかりに買いにきていた。
岡崎は今、転換期の真っ只中で、新しく個人商店などがどんどん増えているが、一方で古くからある建物やお店も次々と無くなっている。幼少期から見てきた印象的な看板が街から姿を消すたび、仕方がないとは思いながらも、やはりどうしたって寂しいと思ってしまう。 だから[CIBICO]が10代の子たちにも、ノスタルジーを感じられるランドマークとして愛着を持ってもらえることが嬉しい。これからも街はどんどん変わっていくだろうけど、そこにはいつも[CIBICO]が佇んでいてくれたらと思う。
もし、愛知県へ遊びに来ることがあれば、ぜひ岡崎へ。そして[CIBICO]にも立ち寄ってみてください。
5月27日に発売する新刊『森、道、市場な人と店』にも、岡崎を含む愛知県の素敵なお店情報がたくさん載っているので、旅のお供に合わせてどうぞ。
山田美法(編集)