テオ・ヤンセン展を観に行った。
オランダのアーティストで「ストランド(砂浜)ビースト(生命体)」という作品を作り続けている。 ストランドビーストとは、プラスチックチューブで作られた生命体だ。風の国のオランダの砂浜で、その風を原動力に走る。
大阪の南港で、オランダの砂浜のようにビーストたちが走り回っている姿が見れるのか?!と、うきうきしながら会場へ向かったが、そんなわけもなく大人しく展示されていた。
それぞれのビーストの横には図鑑のような説明書きの大きなキャプションと、モニターが設置されており、オランダの砂浜でビーストが実際に走る映像が流れていた。
これらビーストの動きは物理工学を基盤としていてヌルヌルと滑らかで、優雅に馬がビーチで走っているかのように動くものや、犬がしっぽを振るときのような動きをするものなどがあって、その有機的な動きは生き物のようで、愛着が湧いてくる。
入り口で展示されているビーストを見てその迫力に圧倒されていたのに、会場を回りながらキャプションを読み、実際に動いている映像を見ていると、猛烈に「ストランドビースト、かわいい!」という感情がこみ上げてきた。 ビーストのあらゆる「かわいい」を見つけるたびに、マスクの下でつい、ニヤァ…と笑顔が抑えきれない。
展示出口には関連グッズを売るミュージアムショップがある。ミニチュア版のストランドビーストのプラモデルが売られていた。 小さくなってもかわいい!!!買う!とアドレナリンが出たが、一旦様子見をしてショップを一周した。
こんな繊細に組み上がったビーストミニを、自宅に置いておけるのか?
たまに風を当てて、動かすのか?
そもそも完成まで組み立てられるのか?
ペットを飼う前のように、お世話できるか問答をした結果、買わないことにした。
見本品として、そのミニチュアビースト3種類が置かれており、団扇で仰いで動かすことができた。たくさんの大人たちが一生懸命に団扇を振り、ビーストを動かしている。
周りの人をよく見ると、いろんなところで「かわいい…」という声が聞こえてきた。
「わかる。かわいい」。心の中で相槌した。 やっぱりストランドビーストはかわいいんだ!
赤ちゃんは「かわいい」ことで他人に庇護してもらい、生命を維持する。それは理解できる本能だ。 ならば、ストランドビーストのような無機質なものの「かわいい」ってなんなのだろう?
「かわいい」という言葉は便利なもので、感情の昂りをこれひとつで片付けてしまう。動物や小さなものなど、本来的に「かわいい」がぴったりくる対象にも、そうでない対象にも使えてしまう。
ストランドビーストはどっちだろう?「かわいい」が適切なのだろうか。 ビーストに抱いた「かわいい」の正体が気になった体験となった。
(デザイン 橋本)