暑さが厳しい夏になると、食欲がなくなる。なぜなら台湾の夏は、気温37度以上を超える地獄だからだ。アイスしか喉が通らず「どうしようかな」と思いながら爆汗をかいてしまう。本当に何も食べたくない。そんな時に味わえる唯一の幸せは、台湾の涼麺(冷やし麺)だ。
日本の食文化には、冷たい麺を食べる習慣があり、中華風の冷やし麺以外、素麺やそば、うどんなどの麺類も冷たいのが登場する。しかし、同じ冷たい麺でも味付けは、台湾のと比べると、ずいぶん違う。日本の冷やし麺は基本的に酢醤油をベースにしたタレが多い、味もまろやか。一方で、台湾の涼麺は、ニンニクとゴマやピーナッツで味付けされたタレ。濃厚、でもさっぱりできる味だ。説明しようとしても、なかなか最適な言葉が見つからない。
日本の冷やし麺も台湾の涼麺もどちらも美味しい。でも、猛暑の夏を闘うには、台湾の涼麺が食べたくなる。なぜなら、台湾の涼麺は味付けが強い!酸っぱくて、辛くて、甘くて、しょっぱい。だから、一皿食べると、体も心もスッキリ!酷暑から唯一逃げられるとしたら、これ。
私的涼麺の不思議①
日本で暮らしている私が、たまらないほど暑い日に、いつも台湾の涼麺を作って食べる。もちらん、台湾の涼麺を食べると体が感じる暑さが和らぐ。だけれども、私にとって台湾の夏を乗り切るための涼麺、そんな南国っぽい食べ物を、日本で味わうことに、ちょっと違和感を感じて、超冷静な気持ちになる。こういった体験は面白い。
私的涼麺の不思議②
台湾の涼麺は具もいろいろ。一番よくあるのは、せん切りのキュウリだけ載せるもの。麺とみずみずしいキュウリ、タレを混ぜて食べるのは一番シンプルな味わい方。美味しさは全然シンプルではなく、複雑で濃厚、天国にいるみたいに美味。
あと、台湾の涼麺屋さんに行くと、メニュー表に味噌汁が絶対に書いてある。いつもなぜ涼麺と味噌汁はコンビネーションになっているのかな?と思いながら、ついつい味噌汁も思わず注文してしまう。すごく暑いのに、なんで味噌汁も一緒に提供されるのかよくわからないけれど、とりあえず、台湾では涼麺と味噌汁は定番の組み合わせだ。不思議。
一度、なぜ涼麺と味噌汁がセットになっているのかお店の方にお聞きすると、「特に由来はなく、みんなそうするので、こちらもそうしている」という答えをもらった。ネットでも調べたが、それらしい答えは出てこない。ということで、結局、謎のままなのだ。
とある涼麺屋さんは、味噌汁は無料で提供されていて、おかわりも自由にできる。その味噌汁はすごく純粋な味、刻みネギを少し散らしているだけの、贅沢な一品だ。というのも、台湾で食べられる味噌汁のほとんどが甘い。味噌汁を常食としている日本人にとっては想像できない甘さだと思う。
そして、涼麺屋さんで提供されている味噌汁のアレンジもいろいろ。一番人気な食べ方は、とき卵をいれて、ふんわりと仕上がった卵味噌汁だ。他にも、貢丸(つみれ)をいれたり、いろいろな食材をいれて、豪華なのが好きな方もたくさんいる。正直にいうと、甘い味噌汁はおやつみたいであまり好きではない。でも、涼麺を食べる時にはやっぱり甘い味噌汁を食べたくなる。自分もなぜだか理由は不明だけど。甘い味噌汁がないと、涼麺を食べるだけになって、ちょっと寂しくなるくらい。
台湾では、このような食べ物のコンビネーションは、他にもいろいろある。水餃子と酸辣湯、米粉と貢丸湯、焼きそばと豚血湯、どれも台湾料理の定番の組み合わせ。どんなコンビネーションでも、美味しいのは正義。これからも涼麺と甘い味噌汁のセットを守りたいなと思いつつ、こんな特有な食べ物の組み合わせを、別の国の友人に一度でも食べてほしいと思っている。でも、外国人向けのガイドブックにはあまり台湾涼麺の情報が掲載されてない。だからぜひ、台湾を訪れる機会があれば、涼麺屋さんに行って、涼麺と甘い味噌汁のセットを食べてほしい。心まで癒されるはず。ちなみに、台湾では多くの涼麺屋さんが深夜までやっているので、夜中にちょっと小腹が空いたら、台湾涼麺はいかがですか?
簡 子傑(デザイン部。台湾出身)