小沢健二のライブツアー『So kakkoii 宇宙 Shows』の名古屋公演に先日行ってきた。コロナの影響で延期していた、2年越しのツアー。思い返せばコロナ以降、イベントの中でライブを見ることはあっても、ワンマンは初めてだ。最近の曲を聴き直して予習しておかないと、と思いつつも、一緒に行く友人が事前に共有してくれた他会場でのセットリストは、見ないでおいた。サプライズをとっておくために。
実際行ってみると、昔の曲と最近の曲と半々くらいの割合だった。『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』を歌っていたかと思えば、曲の途中で『いちょう並木のセレナーデ』に入れ替わり、その後再び「アルペジオ〜」に戻って、また最後は「いちょう並木〜」のアウトロで終わる。そんな新旧それぞれが交互に変わるような流れのメドレーもあったりして、時代を飛び越えたミックスも楽しむことができた。今回はツアータイトルにある“宇宙”がモチーフでもあるのだろう。グッズにはピンクとグリーンに光る電子回路があり、観客たちがそれを腕などに巻きつけながら、小沢健二の「lights on」「lights off」の掛け声に合わせ、客席では小さな灯りが一斉にちりばめられたり、真っ暗になったりして、星が見えたり、見えなかったりする夜空の表情を会場全体で作っているようだった。また、小沢が先導して、腕を振って歩くような振り付けや、UFOを飛ばす振り付けなど、みんなで同じ動きを作って、声援が送れなくてもコロナ対策に適応しながら、会場の盛り上がりを感じた。
個人的に、一番グッときたのは、ライブの進行もクライマックスといったタイミングではじまった『ある光』。渡米前にファンに別れを予告した曲だと言われている。歌詞からは当時の葛藤が想像でき、こちらのメンタルのコンディションが悪いと、引っ張られて胸が締め付けられるようだったこともある。それがこの日は、オーケストラの迫力も相まって、悩みも葛藤も大きく肯定しているように聴こえた。舞台上で眩しく光るライトが、金髪になっていた小沢のシルエットのみを浮かび上がらせ、とても神々しいものに立ち会っているような気にさえなった。
そのあとに続いたのは、活動を再開してから発表した『彗星』。
そして時は2020 全力疾走してきたよね
出典:彗星/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
と冒頭の歌詞で現代につながり、小沢健二が帰ってきたことを強く感じた。
そして舞台は暗転する。客席から拍手は鳴り止まず、「もしかして今、アンコール待ちの時間?」とソワソワ。それまで朗読はあれど、いわゆるMCっぽいお喋りはなく、ぶっ続けでかなり密度の濃い内容だったので、息つく暇もなくあっという間すぎて、いつの間にそんなに時間が経ったのだろうと不思議な感覚だった。それでも『ある光』からの『彗星』の流れは終わりにふさわしく、本編終了を実感せざるを得なかったが。
アンコールの最後には、小沢が5カウントを切り、「生活に戻ろう」の一声で幕を閉じた。まだまだ余韻に浸ってあれやこれや言いたかったが、夜ご飯を食べている頃には、さっきまでのライブがずいぶん前のことのように感じ、いつの間にか小沢健二の魔法は解けてしまった。
私はあらゆる年代の中で90年代が一番好きだ。例えば音楽でも、長年活動して成熟したアーティストの曲よりも、デビューしたての荒削りなものが好きだなのだが、この時代はそういう初期衝動みたいなものを感じる。カセットテープでオリジナルミックステープを作ったり、ZINEに自分の好きなものや考察を書いて販売したり、アイドルを追いかけるファンが殺到して騒動になったり、コギャルやシノラーのような派手なファッションが現れたり……社会のルールや秩序は不安定な部分が多かったけれど、そんな未成熟さも含めて、あの熱量に憧れてしまう。
その90年代に、渋谷系の王子様と呼ばれ活躍していた小沢健二(オザケン)。当時、私はまだ赤ん坊〜未就学児だったのでリアルタイムでの記憶はひとかけらもなく、学生時代に聴き始めた頃は、幻の人という印象だった。それが、まさか生でライブを観られるなんて。憧れていた時代が今、確実に私に繋がっていて、リアルタイムで体験できたことがとても感慨深かった。
そして、最近90年代のカルチャーが再び注目されているようだ。TikTokでブラックビスケッツの『タイミング 〜Timing〜』、広瀬香美の『ロマンスの神様』などが流行ったり、ファッションも今年はチビTやフレアパンツがトレンドになっていたり。コロナで元気をなくしてしまったこのご時世、あの頃のポップなカルチャーを取り入れて、明るく楽しくなれたらいいな。