先日、京都で和菓子づくりのワークショップ「知って、作って、味わう和菓子」に参加した。
以前、「日菓」という和菓子ユニットで活動していた堀部きなこさん主催のワークショップで、9月の季節の花である菊を和菓子で作るというものだ。
好きな和菓子といえば、わらび餅にみたらし団子、ぜんざい・・・。和菓子好きな人であれば四季折々のひと品を楽しむのだろうけれど、私は全く詳しくない。それでも、2016年に京都のギャラリー「モーネンスコンピス」で見た、日菓のクロージング展覧会がとても心に残っていて、案内を見てすぐ、気づくと友人に連絡していた。その日のうちに、予約のメールも完了。
会場は、神宮丸太町にあるゲストハウス「ニニルーム」。エプロンとタオルを持って、いざ。大阪から京阪に乗って、未だ夏真っ盛りな感じの晴天の京都にやってきた。
ワークショップは「菊の節句」の説明や、和菓子に使う材料のお話から始まる。関西は「こなし」を使って、関東は「練り切り」を使うそう。
見本としてまずは、堀部さんが「ヘラ菊」の作り方を披露してくれた。「ヘラ菊」は和菓子作りの道具・三角ベラを使って作る。白餡を包んで丸くなったこなしに三角ベラを添えて、上下に動かしながら少しずつ横にずらして、紋様を刻んでいくのだ。堀部さんのレクチャーを見ていると、なるほど〜とわくわくしてきた。同時に、意外と簡単そうに見えてきた。これ、結構すぐ完成するのでは?
色付けしたこなしで白餡を包んだあと、習った通り三角ベラで、菊の花びらを刻んでいく。
中央から、三角ベラをゆっくり下におろし、そのあと上へ戻し……あれ? 同じ線をたどってるだけじゃないか……! 頑張って、右に少しずらして、上下に動かす。無理やり横にいったものの、途中で思考停止。はて? これで本当にあっているのか? 私はどうしたかったんだっけ?
手が思うように動かない。途中から、自然な腕の動きに任せようと上下と横に三角ベラを動かしていくうちに、均一な美しさとは程遠い、ぼてっとしたものが生まれた。早く作り終わりそうと少しでも思った自分が恥ずかしい。
2つ目3つ目は、同じものを作ってもいいし、「菊」をテーマに自由にデザインを考えてもいい。せっかくだから、もう一回三角ベラを使ってみたい。赤と黄色の染料を使ってこなしをオレンジ色にして、また「ヘラ菊」に挑戦した。
そこからちょっと思考を変えてみようと、自分の「ヘラ菊」に雫をつけてみたいと閃いた。雨が降った後の、菊をイメージ。なんだかテーマとしては、いい感じ。3つ目は何にしようかな〜と、あまったこなしを何の気なしに引き伸ばし、線を入れてみる。花びらっぽくなった。そうだ花びらが散った感じにしよう!
周りの人が、「冬と菊」や「菊のかんざし」とテーマを決めて黙々と作っている中、花びらを作ることに一生懸命になった。菊の花って、黄色はあったけど青や赤ってあったっけ? たぶんないよな・・・と思いながら黄色や青、赤の花びらを作る。テーマやデザインを決めずに、どんどん進んでいく。こなしは乾燥してしまうから、立ち止まってられない。花びらをどんな土台に乗せたいかな、うーんうーん。芝生に落ちた感じかな。土台のこなしを緑色に色付けした。
思いつきで進めていいんだろうか?と思いながら、先日出会ったヴェネツィアングラスの職人さんの言葉を思い出した。彼はいつもデザインを決めず、作りながらガラスを溶かして描いていくのだそう。何ができるかわからないからこそ、楽しいのだと。その時はそういうものか〜と理解した感覚も、今、身を以て理解できた。完成。
和菓子は季節ごとにいろいろな種類があることは知っていたけれど、日常の小さな情景やシーンをこの小さなお菓子に込めて表現するのって、想像以上におもしろい。花そのものを菓子に見立てることはもちろんだけれど、小さな意味・情景をちりばめたり重ねたり。そこには受け手の想像力も必要になる。表現であり、季節を感じ祝うコミュニケーションのようなものなのかな。
以前、俳句を翻訳するイタリア人翻訳家が、「俳句はその短い句の中で、いくつもの意味が含まれ翻訳が難しい」というようなことをトークイベントで言っていたのだけれど、和菓子にもどこか似たものがある気がする。限られた中で表現することのおもしろさ。これこそ「日菓」の作品を見たときに感じたときめきだ。「日菓」のお二人が生むときめきには全然近づけないけれど、また手を動かして、自分なりのときめきを体感したい。
小島知世(編集)