2021年に開催された「MY FAVORITE ASIAN FOOD」展。
7月に大阪・阪急うめだ本店からスタートし、京都、東京、名古屋を巡回。再び大阪に戻りラストを迎えた。
日本・台湾・韓国・香港から60名もの作家が参加し、「記憶に残る料理」をテーマに描いた作品の原画が一堂に並んだ会場は今思い返しても、壮観だった。
この展示の核となった「記憶に残る料理」は、個人の記憶の中だけでなく、そのフードが食されている国の状況や文化、生活、はたまた季節と密接に関わるものならば、その土地でその時期に育まれた経緯や背景がにわかに見えてくる。
あるいは、作家の幼い頃の料理体験の記録から、その一端を目にした人たちの記憶までもを刺激し、自分の中にもある家族との外食や、父や母が作ってくれた料理の数々、大切な人との食事の思い出をついつい自然と探してしまう。
作家の記憶が、観る側の記憶にさえも影響を与えている。そんな場となった企画展がなんとも不思議だなと思いつつ、いざ作品の前に立つと、自分の中の記憶の料理にひとしきり思いを馳せているのだった。
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この一見群像を思わせるような展示の形が私は本当に面白いなと常々感じており、観覧するものへ、何をどのように感じるか? を問いかけるような意義の深いものだと思える瞬間がある。
インセクツではそのような展示をする機会が何度かあり、2015年に神戸KIITOで行った、「OUR DIARIES KOBE -100人が日記で綴る、神戸の日常生活と冒険-」展もその一つだ。
神戸在住、もしくは神戸で働く人たちに1日だけの日記を書いてもらい、100日間のリレー日記を展示するというもの。ここでは、打ち合わせの場所としてのカフェや、打ち上げでの中華料理店など、訪れるお店や行動を通して、神戸の人たちの動線が顕(あらわ)れ、100の小さな記録の集積から“神戸らしさ”の輪郭を浮き彫りにするという試みだった。
個である時は見えなかったものが、群になると、顕れてくるものがある。
フォーカスしていたものから、視点をぐっと引くことで見え方が変わり、世界が違って見えてくる。言葉で理解すると、なるほど、当たり前のことだけど、自分の中に落とし込めたとき、その不思議さを、まざまざと体感したのだった。
今後もこのような、発見のある展示と出逢えることを願って、また次の面白い展示や演劇、ライブ・パフォーマンスといった公演に出かけてしまうのはもちろんのこと、インセクツでもやれる場や機会が増えればいいなと思う。
● 終わりに「MY FAVORITE ASIAN FOOD」で興味深かったこと
韓国のイラストレーター12名うち5名が「記憶に残る料理」で “トッポッキ” を描いていたこと。
“トッポッキ” というフードの情景や接点を感じて、さらに関心が高まる。
“トッポッキ” 繋がりで、この本もおすすめ。
著者の人生を通して “トッポッキ” の立ち位置が見えてくる。
著:ヨジョ 翻訳:澤田今日子 発行:クオン
掛川 千秋(デザイン部)