コロナ禍に入って3年目。3年ぶりにキャリーケースを物置から出してきてパッキングをしながらウキウキしていた。このまま空港に行って海外旅行したい気持ちが高まったが、愛知県の蒲郡市で行われる音楽とマーケットのイベント「森、道、市場」へ向かった。インセクツは森、道、市場のオフィシャルハンドブックを作成し、ブース出店もしていた。
大規模な野外イベントに行ったことがなかったので、雰囲気を味わえてよかった。日差しは強く、風も強い日があり、ひしひしと自然を感じた。普段室内で過ごすことが多いので、より。
たくさんの出店で美味しいものを食べ、音楽ライブを聴き、インセクツのブースでは本やスパイスキットを販売をしたりして過ごした。
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インセクツメンバーは、森、道、市場イベント会場の蒲郡市から車で30分ほど離れたインターのホテルに泊まった。イベントは夜まであるので、戻ってただ眠るためだけのシンプルなホテル。清潔で、他の部屋の音が全く聞こえないほど静かで、シャワーの水圧も高くしっかりお湯も出るし、アメニティも完備。
イベント会場すぐそばのちょっといい宿泊施設に泊まりたかったけど、いろいろな事情で叶わなかった。でもインターのホテルも申し分なかった。
20時過ぎに森、道、市場の会場を出て、車でホテルへ向かう。途中で夜ご飯を食べることになり、車内でお店探しをする。市街地から離れているからか、さまざまなチェーン飲食店が多い。Googleマップを見ながら、帰り道付近の店の中から候補をあげていた。
一人が王将を提案すると、何のお店を提案しても「うぅ〜ん…」と生返事をしてたみんなが「餃子食べたい!」と食いつき、満場一致で王将へ向かう。王将はすごいな。お店ごとのオリジナルメニューがあったり味が違ってたりと店の個性があって面白い。
みんなの頭の中は餃子でいっぱいになり、王将に向かう途中に見かけた中国料理の看板を見ても、餃子!と反応していた。
壁に貼られた膨大なメニューたちを左へ右へキョロキョロ眺めて各々食べたいものを決める。あれも美味しそう、それも捨てがたい、やっぱり餃子やろ、ビールが飲みたい、胡麻団子が食べたい。わぁわぁとメニューを決める。
注文したものが続々と運ばれる。餃子定食、瓶ビール、酸辣麺、チャーハン…ごはんたちに紛れてデザートの胡麻団子も早々に届き、揚げたてアチアチを食べたいがまだ口が食事モードなのでデザートを食べる気分じゃないんだよなぁと混乱の食卓。長テーブルいっぱいに料理が並び、王将パーティーが始まった。
特筆することもない雑談をしながら食べ進める。たまに食べる王将、大勢で食べる王将は美味しいなぁ。
ちょうどポイント2倍キャンペーンをしていたので、王将好きでアプリをダウンロードしているインセクツメンバーの一人がまとめて支払い、ポイント総取りとなった。その貯まったポイントで明日も餃子食べよう!と、王将の余韻に浸りながらホテルに帰った。
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3日目最終日、イベントが終わり軽く打ち上げ兼ねて、ずっとドライバーをしていた一人がお酒を飲めるようにとホテル目の前にある、チェーン店焼肉屋へ行った。大勢で焼肉屋へ来たのもコロナ禍以前ぶりで、懐かしさでいっぱいだった。
ハンドルキーパーをしていた人は、待ってましたと言わんばかりに初手のビールを注文。お疲れさまです。
まずはタンから、じうじうと焼き食べ進める。脂の多い肉を焼き始めた頃、網への乗せ方がまずかったせいで脂が炭に落ち、火力オーバーで火事のように火が強まる。
呑気な我らは「なんか、火が強いな」などと言いつつ肉をひっくり返していた。ボンッとなにかが小さく弾けたような音がして、店員さんが駆けつけた。安全装置が外れてしまったようだ。網焼き部分を解体し始め、焼き肉は一時中止になった。
安全装置を元に戻し、店員さんが肉焼きステージを整えてくださったので、改めて静かに肉を焼き始めた。さっきの火力を見たあとに炭火の遠赤外線で肉をじっくり焼いていると、より静かでゆっくりとした時間に感じた。
そんなじっくり炙られる肉を眺めながら雑談しているとラストオーダーの時間になり、閉店時間も近づく。網焼きの安全装置を外した私たちのロスタイムは与えられず、急いで残った肉たちを焼いて食べて退店。
そんなハプニングもまた思い出を濃くする。
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ホテルから徒歩5分ほどのコンビニへ向かう。街頭のない闇の一本道は、普段大阪の中心部分で生活する私には新鮮だった。買い物を済ませてホテルに戻り、共用の食堂スペースでちびちびと紙コップ半分のワインを舐めながら、真面目な話のような、くだらない話のようなことで盛り上がり2時間近く過ごし、気づけば夜中だった。リラックスしていて無限に続くかのような、時間の感覚が麻痺する緩やかな流れの中で過ごせる時間が好きだ。
今回の旅の目的・メインは森、道、市場イベントに参加をして、自社発行物を販売するという仕事と、イベントを楽しむことなのだけど、誤解を恐れずに言えば、記憶に残りそうなエピソードはそんなメインの外側にある“ミミ”の部分だと思う。
王将パーティ、火のあがる焼肉、街灯のない暗い一本道の先のコンビニ、紙コップで舐めるワインと深夜までのおしゃべり…
ここのささやかな部分の美味しさが、何年も経った時に、「2022年に行った森、道、市場の旅」の記憶の中で温かく残り続ける予感がしている。
森、道、市場オフィシャルハンドブック「森、道、市場な人と店」では、私はデザイン担当をしたので、デザインのミミ部分について。
綴じられた本の中心部分をノドと呼ぶのだけど、出店者紹介ページには空の色のグラデーションをそっと挟み込んだ。
朝から夜まで楽しめる森、道、市場の会場で見る、1日の空の色の変化を本の中に綴じたかった。
この綴じた空の部分は、本にとってあってもなくても構わないところだけど、私はデザインするときに、少数の人にでも気づいてもらえたら良いミミの部分を作るのが好きなので入れられてよかった。
制作者の自己満足かもしれないけれど、そんな自己満足も少し含まれたものは人間味を感じて良い。
橋本麻里絵(デザイン部)