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第9回「モリくんはクリスチャンにならへんの?」

2023 3/10
column-land スピらずにスピる
2023年3月1日
スピらずにスピる

思わず、タイトルの語尾「ならへんの?」から、また関西の人間が変なことをモリテツヤさんに言っているのではないかと心配をしましたが、そのような心配は無用でした。やはり「スピらずにスピる」らしいエピソードで今回もお届けします。


僕がキリスト教という宗教に直に接したのは、23歳の時だった。有機農業、自然農を学ぶ為に農学校へ1年間滞在した。その農学校ではアジア圏、アフリカ圏、ヨーロッパ圏から、さまざまな世代の人々がスタッフや学生として集い、共同生活が営まれていた。世界各地から人が集まっているから、各自で食生活や常識も異なる。それでも、キリスト教というひとつの軸があった。農場内には教会があり、朝の収穫作業などを終えると、毎日賛美歌を歌い、聖書を読み、祈り、それから日替わりで共同体メンバーがみんなに共有したい話しをする時間があった。僕はクリスチャンではなかったが、キリスト教文化圏の日々を一年間過ごすことになった。端的に言えば、素晴らしい時間、体験だった。

金を稼ぐには「安くつくらせ、高く売る」という方法が最も分かりやすく、最も普及している方法で、それが多くの多国籍企業の営まれ方だが、農学校に集っている学生は、そのような資本主義経済の仕組みに搾取されている側の国々の人々だった。「先進国」である日本に暮らす人間が、そのような搾取の仕組みに乗っかるのではなく、共に生きる為にどうすればいいかを考え実践する為の学校がその農学校だった。方法としては、換金を目的とした単一作物の大規模栽培に他国の人々を縛り付けるのではなく、その土地に暮らす人々が生きていける為の技術として、自給を主軸とした有機農業を普及するというものだった。そのような目的を持つ学校だったので、そこで働くスタッフや学生(若者から中年まで様々)は経済システムによる非対称的な構造を見抜きつつ、自らの身体を使って働き、そして愛と平和に人生を懸けている人々だった。紛争地帯の砂漠で緑化活動に従事していたようなスタッフもいる。そこで感じたのは、ふわっとした「愛と平和への祈り」ではなく、切実さを伴った「愛と平和への希求、実践」だった。ガチで世界平和を目指す人々だった。眩しく、尊敬の念を抱かずにはいられない人々との出会いがあった。そんな人々と毎朝賛美歌を歌うのだ。

僕はある朝の賛美歌の時間が忘れられない。「君は愛される為生まれた」の歌詞に衝撃を受けた。この世界の認識の仕方があまりにも自分と異なるもので、その世界観に頭がクラクラとした。現代社会は競争を課され、責任が追求され、自分の能力を高めることでサバイブする非情な荒野だと僕は認識していた。でも、そうではない世界の受け止め方がある。自分は愛される為に生まれ、その愛を今も受けている。この現代社会で、自分が自分を保つ為に築き上げた壁のようなものが、溢れそうになる涙と共に瓦解してしまいそうで、泣くのを必死に堪えた。文章では伝わらないかもしれない。でも想像してみて欲しい。知的で、優しく、行動も伴い、尊敬の念を抱かずにはいられないような立派な人々がそんな歌をまっすぐに歌っている空間を。

ある時、牧師のスタッフがこう問いかけてきた。「モリくんはクリスチャンにならへんの?」と。僕はしばらく考えつつ、その時読んでいた仏教の本から引用した言葉で答えたのを覚えている。正確な文言は覚えていないが、多分「スピらずにスピりたい」みたいなことを言ったように思う。生きていく困難を見つめながら、自分で信仰を編んでいきたいみたいなことを。牧師は「は?!なんでそんなしんどいことするん?神様おったほうがええやん!」と言って、僕はその通りだよなと爆笑したのだった。

そのような過去があり、以来、クリスチャンになってはいないが「モリくんはクリスチャンにならへんの?」という問いはずっと胸の中にある。何故僕はクリスチャンにならないのか。

最近、王子の教会で牧師をされている沼田和也さんの本を読んだ。『街の牧師 祈りといのち』(晶文社)という本だ。手に取ったキッカケは忘れてしまった。だが読了後、沼田さんに会いたいと思った。沼田さんは、かつて精神を病み、閉鎖病棟に入院もした。クリスチャンは、信仰する心を失いそうになることを「躓く」というらしいが、沼田さん自身も、何度も躓いていると本に書いている。そして躓いた時に、仏教書を読み漁っていたらしい。牧師になる時にも、何か決定的な導きがあったわけではないという。本のまえがきには”-修士課程を終える頃、中退や引きこもりののちに神学部に入ったわたしはすでに30歳を過ぎていた。今から就職活動をする勇気も、会社員になってバリバリ働く気力もなかった。それでわたしは生活のためやむをえず、自分でもできそうな仕事と舐めてかかった牧師の仕事に就いたのである。”と書かれていた。にもかかわらず、沼田さんは牧師として人生を懸けている様子が本から伝わってきた。教会には困窮した人々が集う。その困窮した人々は、コミュニケーションが取りやすい人ばかりではない。受け止めるのが困難な人もいる。そうした中で、教会は常に扉を開き続けるという使命があり、牧師はその使命に人生の時間とエネルギーを使う。何がそれを可能にしているのかと考えると、やはり信仰の力なのだろうと思う。しかし、何故信仰を持ち続けられるのだろうか。牧師になるのに強い動機もなく、何度も躓き続けながら。何故、仏教徒ではなくクリスチャンなのだろうか。僕は、沼田さんに会いに行くことで、自分の中にずっと残り続けている「モリくんはクリスチャンにならへんの?」という問いに対するヒントが得られるような気がした。

モリテツヤ(もり・てつや)

汽水空港店主。1986年北九州生まれ。インドネシアと千葉で過ごす。2011年に鳥取へ漂着。2015年から汽水空港という本屋を運営するほか、汽水空港ターミナル2と名付けた畑を「食える公園」として、訪れる人全てに実りを開放している。

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