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第10回「メタバースYAZAWA論」

2023 5/01
column-land スピらずにスピる
2023年5月1日
スピらずにスピる

 前回、王子教会への訪問の続きを今書いているところですが、結構長くなりそうなので今回は「スピらずにスピる小咄」をお送りします。


 「この世」を通過した後には「あの世」がある。そして、この世界には「この世」でも「あの世」でもない「その世」があると最近、とある本で読んだ。果たして「その世」とはなんだろうか。

 少し前から「メタバース」という言葉をよく耳にするようになった。メタバースとは、インターネット上に広がる三次元の仮想空間のことだ。人々はアバターと呼ばれる自分自身の分身のような存在を使って他者と仮想空間内で交流を図るのだという。僕はそれを聞いた直後、インターネットが普及する以前からメタバースはあったじゃないかと、ある人物が頭に浮かんだ。そのある人物とは矢沢永吉である。彼の有名なセリフに「おれはいいけどYAZAWAはどうかな?」という名言がある。生身の矢沢永吉はそれでいいけど、YAZAWAはそれでは駄目なんじゃない?という意図が込められているのだろう。矢沢にとってのYAZAWAは、自分自身の分身であり、ファンもまた生身の矢沢ではなくYAZAWAを見ている。YAZAWAという、自分を越えたもうひとりの自分自身をアバターとし、そのアバターの姿を目指されるべき像として、生身の矢沢永吉はYAZAWAを「この世」に現前させようと試みているということだ。矢沢永吉が思い描くYAZAWAと、人々が見ているYAZAWAが共有される時、YAZAWAワールドは、「その世(メタバース)」を「この世」に接続させる回路として私たちに現実世界の奥行きを展開させてくれるのだ。

「「二〇〇〇年」も「80年代」も、宇宙のなかでぼくたちの描くひとつのマーヤーだ。けれどもひとつの美しいマーヤーをえらんでこれを真実に生きぬくということのほかに、宇宙のなかにどのような実存性もないのだ。レアリティとは、人間がひとつの夢を生きぬく仕方の真実性のうちにあるのだ。」
出典:真木悠介『うつくしい道をしずかに歩く』河出書房新社 P.16

 と、真木悠介は書いている。インド哲学は、この現実世界もまたマーヤー(幻影)なのだとしている。「この世」も「その世」もマーヤーであるとする世界で、確かなものはどこにあるのか。その秘密こそが、矢沢とYAZAWAの往復運動の中にあるのだ。ひとつの美しいマーヤー(YAZAWA)をえらんで、これを真実に生きぬくということのほかに、宇宙のなかにどのような実存性もないのだ。レアリティとは、矢沢永吉がYAZAWAを生きぬく仕方の真実性のうちにあるのだ。

 僕は今、生身の肉体を持ち、有限の時間の中を生きている。この生きている時間の中で、モリはどのようなMORIをえらび生きぬくのか。「自分なんてそんなもん」「世間はそんなもん」だと諦めたような気持ちに襲われる度、「モリは「そんなもん」でいいかもしれないけどMORIはどうかな?」と自分を鼓舞したい。「世間は「そんなもん」でいいかもしれないけどSEKENはどうかな?」と、目の前に映る世間を可能性に開かれた世界なのだと何度でも捉え直したい。

 どこかの企業、技術者が提供してくれる「メタバース(仮想空間)」は人を夢中にさせるのかもしれない。しかしその空間はマーヤーの中のさらなるマーヤーである。世間に絶望し、二次的なマーヤーな中での充実を図ろうとする前に、私たちは既にマーヤーの中にいるのだと思い出すことができたなら。「その世」と「この世」を往復しながら、この生きている時間の中を歩めたらと考えているところだ。「モリは毎晩すぐ寝ちゃうけど、MORIなら寝る前に中国語を勉強するぞ」って、自分を励ましながら。

次回は、王子教会訪問の記録、沼田和也さんとのインタビューを掲載予定です。みんな、ぜってぇ読んでくれよな!!

モリテツヤ(もり・てつや)

汽水空港店主。1986年北九州生まれ。インドネシアと千葉で過ごす。2011年に鳥取へ漂着。2015年から汽水空港という本屋を運営するほか、汽水空港ターミナル2と名付けた畑を「食える公園」として、訪れる人全てに実りを開放している。

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